むしろから機能性寝具へ―敷布団が映す日本人の眠りの歴史

むしろから機能性寝具へ―敷布団が映す日本人の眠りの歴史

毎晩、何気なく体を横たえている敷布団。現在では、綿や羊毛、ウレタン、ファイバーなど、さまざまな素材から選べます。しかし、昔の人々が今のような敷布団で眠っていたわけではありません。

敷布団の歴史をたどると、住まいや生活様式、素材の進歩とともに、日本人の眠りが変化してきたことが分かります。

 

 

敷布団の原点は草で編んだ「むしろ」

古代の庶民は、藁やイグサ、カヤ、蒲などを編んだ「むしろ」を地面や床に敷いて眠っていたと考えられています。

むしろは、地面の冷たさや湿気、凹凸をやわらげるための簡素な敷物でした。地域や生活環境によっては、毛皮や藁を利用したり、丸太などで床面を高くしたりすることもあったようです。

現代の敷布団ほどのクッション性はありませんが、体と地面の間に一枚の層をつくるという意味では、敷寝具の原点といえるでしょう。

 

 

奈良・平安時代は畳が寝具だった

奈良時代になると、身分の高い人々の間で畳が使われるようになります。

正倉院には、聖武天皇が使用したとされる「御床畳」が伝わっています。現在の部屋一面に敷く畳とは異なり、むしろのような敷物を何枚も重ね、寝台の上に置いて使用するものでした。

平安時代の貴族も、板敷きの床に畳や敷物を重ね、その上で休んでいました。当時の畳は部屋の床材というより、身分の高い人が座ったり眠ったりするための特別な道具だったのです。正倉院に伝わる寝台や御床畳についての解説

一方、庶民の間では引き続き、むしろや藁を利用した眠りが一般的でした。寝具の違いには、当時の身分や暮らしの豊かさが大きく表れていました。

 

 

「蒲団」はもともと丸い敷物

「布団」という言葉は、もともと蒲の葉を編んで作った丸い敷物を意味したとされています。禅僧が座禅をするときに用いる座具として、中国から禅宗とともに伝わったものです。

現在でも座禅に使用される丸い座布団を「蒲団」と呼ぶことがあります。つまり、布団という言葉は、初めから眠るための綿入り寝具を指していたわけではありませんでした。

 

 

木綿の普及から綿入り布団が誕生

現在の敷布団につながる大きな変化は、国内で木綿の栽培が広がった戦国時代から江戸時代に起こります。

木綿は衣類だけでなく、軍需品などにも使われる貴重な素材でした。やがて綿を中に詰めた寝具が作られるようになりますが、当初は非常に高価で、限られた富裕層しか所有できませんでした。

江戸時代には綿入りの寝具が使われ始めたものの、多くの庶民は畳やむしろ、藁などを利用して眠っていました。幕末になると、掛ける寝具と下に敷く寝具を区別して、「掛蒲団」「敷蒲団」と呼ぶようになったとされています。

このころ、ようやく現在の敷布団に近い長方形の形が定着していきました。

 

 

明治から昭和に広がった綿の敷布団

明治時代には海外から比較的安価な綿が輸入され、綿入りの敷布団が少しずつ一般家庭にも広がりました。明治21年には既製布団の製造・販売も始まったとされています。

ただし、全国で一斉に普及したわけではありません。地域によっては、昭和に入ってからも藁や海草などを詰めた寝具が使われていました。綿の敷布団が広く普及するのは、生活が豊かになった戦後以降です。布団綿の歩みについては、国立国会図書館にも専門資料が所蔵されています。国立国会図書館「ふとん綿の歴史」

綿の敷布団は汗を吸いやすく、日に干すとふっくらと膨らみます。一方で、湿気を含みやすく、長く使うと中綿が固まるため、布団を干す、押し入れに収納する、綿を打ち直すといった生活習慣も生まれました。

 

 

ベッドの普及とともに素材が多様化

戦後、日本の住宅にベッドが普及すると、床や畳に直接敷く布団だけでなく、ベッド用マットレスを使う家庭も増えていきました。

敷布団にも綿以外の素材が取り入れられ、羊毛、ポリエステル、ウレタンフォーム、立体構造のファイバーなど、選択肢が広がります。

軽量で上げ下ろししやすいもの、体圧を分散しやすいもの、寝返りを助ける反発力を備えたもの、洗えるものなど、現代の敷寝具には快適性だけでなく、お手入れのしやすさや衛生面も求められるようになりました。

 

 

変わらないのは「体を受け止める」という役割

むしろ、畳、藁布団、綿の敷布団、そして現代の機能性寝具。素材や形は変わっても、敷寝具には床からの冷気や湿気を遠ざけ、眠っている体を支えるという変わらない役割があります。

ただし、昔ながらの硬い敷布団がすべての人に適しているわけでも、厚く柔らかい寝具ほど快適というわけでもありません。体格や寝姿勢、床に敷くのかベッドで使うのかによって、必要な厚みや反発力は異なります。

敷布団の長い歴史は、人々がその時代の素材と知恵を使い、少しでも心地よく眠ろうとしてきた歴史でもあります。毎日使う敷布団だからこそ、昔からの習慣だけで選ばず、今の体と暮らしに合っているかを見直してみてはいかがでしょうか。

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